大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所長岡支部 昭和33年(わ)95号 判決

被告人 少年E外二名(一名成人)

主文

被告人Eを懲役五年以上七年以下に、

被告人Gを懲役四年に、

被告人Fを懲役四年以上六年以下に、

各処する。

被告人三名に対し未決勾留日数中各六十日を右本刑にそれぞれ算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Eは二十年未満の少年であるが、幼時、家庭不和から実父に家出せられ、監護能力の乏しい実母のもとにおいて窮乏生活の中に養育されたが、実母も約二年前他界し、その頃兄姉や弟等もそれぞれ離散し、頼るべき肉親も安住すべき場もともに無い境遇の身であり、かねてから非行が多く救護院○○実務学校や××少年院等転転長期にわたり収容せられ、その間度々逃走を繰り返したりした後、昭和三十三年八月六日仮退院したが、なおも非行を犯したため、同年九月二十四日東京家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、その頃から新潟県○○市××町所在△△少年学院に収容せられていた者、被告人Gはすでに満二十年となつたものであるが、幼少の頃、実父母の離婚と実母の再婚に遇い、その後居所を転々し継父の冷遇を受けて家庭に安住できない儘成長し、かねてから非行が多く、そのため東京都立○○学院に収容され、その間逃走と放浪を反覆し、その都度窃盗等の非行を犯したりした後、昭和三十一年七月二日同学院を退院したが、なおも放浪の末窃盗を犯したため、昭和三十三年九月十五日東京家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、その頃から右△△少年学院に収容せられていた者、被告人Fは二十年未満の少年であるが、女給として料理店に勤める実母の非嫡出子として出生し、実母の破綻せる生活のもと安住と信頼に足る家庭及び保護者等に恵まれない儘成長し、かねてから非行が多く、児童相談所送致を受けた後、○○学院、××少年院及び△△少年院等転々長期にわたり収容せられ、その間度々逃走したりした後、昭和三十三年五月十三日仮退院したが、なおも窃盗等を犯したため、同年十月三日前橋家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、その頃から右△△少年学院に収容せられていた者であるが、他の在院者等と秘かに逃走を企て、同年十一月二十二日午後十一時を期してこれを決行するに当り、

第一、被告人Eは

(一)  同G及びF等と共謀のうえ、同日時頃、前記△△少年学院第三学寮附近において、いずれも被告人等の右逃走を制止しようとした

(イ) 同学院勤務法務教官L(当四十八年)に対し、かねて用意していたガラスの破片をもつて同人の顔面に切りつけたり、又は扉越しに交々体当りを加えたり食台を激突させたり等し、よつて同人に右眼鞏角膜穿孔創により右眼を遂に失明するに至る傷害を負わせ、

(ロ) 同法務教官M(当二十三年)に対し、右ガラスの破片をもつて同人の後頭部を強打し、よつて同人に後頭部切創により全治まで約十日間を要する傷害を負わせ、

(二)  前記学院から逃走の途中、ともに逃走した在院者Hと共謀のうえ、同月二十三日午前零時頃、同市栖吉町二千七百番地農業竹日重幸方軒下附近において、同人所有の中古自転車一台(時価約五千円相当)を窃取し、

第二、被告人三名は、右学院からともに逃走した在院者I、同J及び同Kと逃走中共謀のうえ、同日午前一時頃、強盗の目的をもつて、同市同町××××番地農業A(当三十九年)方に赴き、同家玄関口附近において鎌及び鉈等を発見するや、各自右鎌又は鉈等を携帯して、右玄関口より同家屋内に侵入し、同所において、就寝中の同人及びその妻B子(当三十一年)並びに長男C(当十年位)及び次男D(当七年位)に対し、「騒ぐな」「騒ぐと殺すぞ」等と交々申し向けて同人等を脅迫し、更に麻繩又は腰紐等をもつて右四名の手足をそれぞれ縛り上げたり猿ぐつわをかけてこれに布団を被せたり等してその反抗をいずれも抑圧したうえ、同家屋内等をくまなく物色して右A所有の現金九千円位、男物オーバー等衣類合計十二点位並びに腕時計一個外雑品合計十点位を強取し、被告人Eは、右強盗の際、右のとおり手足を縛り上げられたり等されて取乱している右B子の姿態を目撃してにわかに劣情を催し、すでに同女が反抗を抑圧されているのに乗じ、強いて同女を姦淫したものである。

(証拠の標目) (略)

(法令の適用)

被告人Eの判示第一の(一)の各所為は刑法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第二条刑法第六十条に、判示第一の(二)の所為は同法第二百三十五条第六十条に、判示第二の所為中、住居侵入の点は同法第百三十条罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に、強盗強姦の点は同法第二百四十一条第六十条に各該当するところ、右傷害の罪及び住居侵入の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を、右強盗強姦の罪については所定刑中有期懲役刑を各選択し、判示第二の住居侵入と強盗強姦とは手段、結果の関係にあるから、同法第五十四条第一項後段第十条により刑の重い強盗強姦の罪の刑に従い処断すべきものであるが、以上は同法第四十五条前段所定の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条により刑の最も重い強盗強姦の罪の刑に同法第十四条の制限内において法定の加重をし、その刑期範囲内において処断すべきところ、少年であるから少年法第五十二条第一項第二項を適用し、被告人Eを懲役五年以上七年以下に処する。

被告人G、同Fの判示第二の所為中、各住居侵入の点は刑法第百三十条罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第六十条に、各強盗の点は同法第二百三十六条第一項第六十条に各該当するところ、住居侵入の罪については所定刑中懲役刑を選択し、右はそれぞれ手段、結果の関係にあるから同法第五十四条第一項後段第十条により刑の重い強盗の罪の刑に従い処断すべきものであるが、情状憫諒すべきものがあると認め同法第六十六条第七十一条第六十八条第三号により右刑を各酌量減軽し、その刑期範囲内において被告人Gを懲役四年に処し、被告人Fは少年であるから少年法第五十二条第一項第二項を適用し、右刑期範囲内において同被告人を懲役四年以上六年以下に処する。

なお、被告人三名に対し、刑法第二十一条により未決勾留日数中各六十日を右本刑に各算入することとし、訴訟費用は刑訴訟法第百八十一条第一項但書を各適用し、被告人三名がいずれも貧困のためこれを納付することのできないことが明らかであると認め、いずれもこれを負担させないことにする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤井尚三 菊地博 川瀬勝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例